第12回「聞いている人の気持ちになる」

飽きる

これまで伝わる話し方の様々なコツをご紹介してきましたが、今回は最もシンプルなのにビジネスパーソンの皆さんがなかなか実際にできていないポイントをお伝えします。

それは、「聞いている人の気持ちになってみる」こと。これまでお伝えしてきた話し方改善のための方法も、この考え方を基本にして生まれたものなんです。少し振り返ってみましょう。

早口になってしまう場合とならない場合

連載の第3回では「とにかく早口にならないように」とお伝えしました。

なぜそうなるのか。私は「聞いている人の気持ちをしっかり把握できていないから」だと思っています。

大人数の前では早口になってしまうという人でも、そうならない場合があります。それは、自分が大好きな異性や自分の子供に話しているとき。あるいは、一対一で相手にわかるように説明しようとしているときです。

想像してみてください。そんなときって「わかってくれているかな」「この話、楽しんでくれているかな」「あきてないかな」などと考えながら話していますよね。このように相手の気持ちをちゃんと考えようとすると、一方的に言いたいことを話すことはできないはずです。

一方、たくさんの人の前ではなかなかそれができません。聞いている人が多すぎてどこを見ていいのか戸惑ってしまうからです。そうなると聞いている人の気持ちになる余裕がなくなり、どんどん一方的に話してしまう。結果的に早口になる。こんな感じではないでしょうか。

私は、そんな方には、できる限り聞いている人の顔を多く見て、うなずきなどの反応を確認しながら話すようにしてください、とお伝えしています。それだけで早口はかなりおさえられます。

聞き手の気持ちになって、具体的にすること

別の回では、「黙ることの重要性」や「マシンガントークにならないように」ということもお話ししました。これも、聞き手の気持ちになってみればわかることです。

ある程度、聞く立場になれば、話し手が多少言葉に詰まったりしても、それほど気にならないですよね。時々黙ってくれる方が、かえって聞いていて疲れません。

お笑い芸人のマシンガントークは面白いから聞けるのであって、普通の人がする普通の話や込み入った話を、のべつ幕なしに聞かされたらどう思うでしょうか?「流暢に次々話さなくては!」というのは話している側の思い込みなのです。

前回、前々回でお話しした送別会のスピーチ自己紹介も、やはり聞き手の立場になれば、どうすればいいかわかるはずです。

スピーチを聞いていて嫌なことってどんなことでしょう。まず思いつくのは「長い」こと。それほど面白くない話でも、短ければイライラせずにすみます。

次に、「いつまでたっても、何が言いたいかよくわからない」ことではないでしょうか。スピーチは「短く」「何が言いたいかはっきり早めに言う」のがおすすめです。

プレゼンやスピーチをする前なら、「聞いている人がまず聞きたいことは何か」「疑問に思うことは何か」「逆に嫌なことは何か」などを考える。話している最中は、話したい内容はもちろんですが、「聞いている人は今どう思っているだろうか」ということも考える。

話すことに悩んだとき、私はいつもこの考え方に立ち戻るようにしています。

この記事は、2019年1月から12月まで週刊東洋経済に連載したコラム「必ず伝わる最強の話術」に 加筆修正を加えたものです。

聞いている人の気持ちになる。口で言うのは簡単ですが、いつもできるとは限りませんよね。話し方の問題ではありませんが、森喜朗元JOC会長の発言も誰が聞いているか(目の前にいる人以外も聞いているはずと)想像しながら話せば、あのような結果になっていない気がします。私もこれまできっと数多くの失言はしてきていると思いますので、えらそうなことは言えませんが、言葉を発する前に少しだけ「これ大丈夫かな?」と考える。言ってしまった後でも「今の大丈夫だったかな?」と反省し、まずかったらすぐに訂正する。それくらい自分の言葉に注意するようになれば、話し方も変わると思いますよ。


松本和也松本和也(まつもと・かずや) / 音声表現コンサルタント・ナレーター・司会・ファシリテーター。1967年兵庫県神戸市生まれ。私立灘高校、京都大学経済学部を卒業後、1991年NHKにアナウンサーとして入局。奈良・福井の各放送局を経て、1999年から2012年まで東京アナウンス室勤務。2016年6月退職。7月から「株式会社マツモトメソッド」代表取締役。アナウンサー時代の主な担当番組は、「英語でしゃべらナイト」司会(2001~2007)、「NHK紅白歌合戦」総合司会(2007、2008)、「NHKのど自慢」司会(2010~2011)、「ダーウィンが来た!生きもの新伝説」「NHKスペシャル(多数)」「大河ドラマ『北条時宗』・木曜時代劇『陽炎の辻1/2/3』」等のナレーター、「シドニーパラリンピック開閉会式」実況に加え、報道番組のキャスターなどアナウンサーとしてあらゆるジャンルの仕事を経験した。株式会社 青二プロダクション所属

マツモトメソッドのスピーチ・コンサルティング

トップの伝える力が、企業価値を左右する時代です。

エグゼクティブの皆さまが発するメッセージは、動画でそのままクライアントや消費者に伝わる時代。
トップの方の伝える力が高ければ、最も強力なブランディングツールとなります。
表面を飾るだけの話し方レッスンではなく、メッセージそのものを聞き手に響くものに磨き上げ、自身の持ち味を生かした説得力ある話し方を身につけましょう。

マツモトメソッドでは、「プライベート・レッスン」「グループ・セミナー」の2つのコースをご用意し、みなさまのスピーチ、プレゼンテーションが成功されるようご支援いたします。


マツモトメソッドのスピーチ・コンサルティング詳細はこちら

マツモトメソッドのSNS