エグゼクティブやビジネスパーソンのプレゼンテーションをお手伝いする仕事を始めて5年あまり。忙しい方を相手にしているため、「ざっくりと」「シンプルに」「ゆっくり・はっきりと」「準備を徹底する」など、基礎的な伝え方のテクニックを短い時間で伝えることしかできないのがほとんどです。
今回は、お客様に「本当はここまでたどり着いていただけたらなぁ」と思っている、私が考えるプロのテクニックについてお話しします。
それは「チェンジ・オブ・ペース」と「メタ認知」です。
内容は素晴らしいのに、聞き手が眠くなる理由
プレゼンテーションやスピーチでは、ある程度長い時間聞いてもらわなければなりません。残念ながら、ふつうに話していると、聞いている人は眠くなります。内容は素晴らしいのに眠くなる場合、その多くは「単調に聞こえる」話し方が原因になっています。
「チェンジ・オブ・ペース」とは、文字通りペースを変えること。といっても、変えるのは「話すスピード」だけではありませんよ。話す時の要素全てを、場面に応じて細かく切り替えていくのです。
ほとんどの方のプレゼンは、ご自身の話すスピード、声質、間合い、などはほぼ一種類で通すことが多いものです。
少しできる人だと、大切な部分は、普通よりも「ゆっくり」「大きな声で」「間を開けて」話す方もいます。
もちろん、これだけでも十分です。ここからさらに引きつける力をつけたければ、バリエーションをさらに増やしていただきたいのです。
普通よりも「ゆっくり」と「速く」、「大きな声」と「小さな声」、「間をあける時」と「畳み掛ける時」。表現のオプションをあと1つ増やすと、それだけ平板さ、単調さを避ける手段を持てるのです。
これだけは、ただなんとなくやってみようとしても今までのやり方が身についているため、なかなかできないものです。事前に原稿を書いて、ここは変化をつけるぞと意識して話すようにしましょう。
もちろん、録音してチェックするのも忘れずに。試行錯誤しながら、少しずつ身につけるようにしましょう。
単調になってしまう避けるべき話
話し方以外でも、単調さを避ける必要があります。
立派な話やいい話、論理的な話や抽象的な話。どんなに素晴らしい内容でも、同じトーンの話が連続すると、やはり単調になって聞いていられなくなった、という経験はないでしょうか。
そんな時には、聞き手が緊張して聞かなくてもいいような話を合間に入れるようにしましょう。
具体的な話、たとえ話、失敗談。内容をたくさん詰め込みたい人にとっては、「ムダ!」と思えるような話でも、聞き手にとってはひと休みできるありがたい時間になるのです。
もうひとりの自分が、自分を客観視している状態「メタ認知」
問題は、話に熱が入ってくるとこうした判断ができなくなってくることです。そうならないために大切なのが、自分の話している姿をもう一人の自分が客観的に見ている状態でいることです。
「メタ認知」とも呼ばれるこの感覚。なかなかできないことです。
私も、アナウンサーになって10年くらいで、自分がテレビにどう映っているか、視聴者の方からどう見えるか、ということを話しながら感じられるようになっていました。
どうすればそんな状態になれるかは専門家の方に任せますが、私の場合は単純に場数を重ね、ある程度のことが頭の中で自動的に処理できるようになってきて、ふとそうした認知の仕方ができるようになっていました。
話しながら半分醒めている。自分の話している姿が客観的に把握できる。そんな状態になるまで場数を踏む。
理想をあげればキリがないですね。 どうすれば伝わりやすい表現ができるのかは、実のところまだまだ模索中です。
残すところあと2回。次回は、ここまでのテクニックのおさらいです。必見ですよ。
この記事は、2019年1月から12月まで週刊東洋経済に連載したコラム「必ず伝わる最強の話術」に 加筆修正を加えたものです。