前回、「話し方を向上させたかったらまず録音しましょう」とお話しました。
次の段階は、その録音したものをどう聞くか、ということです。これが話し方を向上させる上で、最初のハードルです。
というのも、何も考えずに聞くと、自分の声があまりにヘンに聞こえて聞く気になれないからです。まずは声質については無視するようにしてください。
この連載の最優先目標は「聞いている人が理解しやすい」話し方を会得することです。声のよし悪しは今のところは放っておきましょう。
録音を聞くときにチェックするのは、話す「スピード」
録音を聞くとき最初にチェックしていただきたいのは、話す「スピード」です。注意しないと聞き取れないようなスピードで話していないか、チェックしてみてください。
私がトレーニングさせて頂いている多くの方は、録音した自分の話し方を聞くと、たいていの場合「滑舌がよくないですね~」と言います。
これ、大きな勘違いなんです。
滑舌が本当に大切なのは、アナウンサー、あるいは役者・芸人など舞台に立つ人です。
舞台では遠くの席にいる人にも何を言っているかわかるように、アナウンサーならどんなに受信環境の悪い中でもニュースがしっかり聞き取れるように、口や舌の動きを滑らかにするようにしています。
一般のビジネスパーソンが人前で話す場合の多くは、地声で話す場合は会議室レベル、それより多くの人に話す場合はマイクを使うはず。いわゆる「滑舌のよいしゃべり」まで必要ないというのはおわかり頂けると思います。
話し方のトレーニングに滑舌練習はいらない!?
とはいえ、聞き取りにくいと言われる。やはり滑舌練習をすべきではないのか?と思ってしまうのもわかります。
大丈夫です。手軽にできる方法があります。
それは、無理なく話せるスピードで話すこと。100メートルを皆が12秒以内で走れないのと同じように、誰もが滑舌よくスピーディーに話せるわけはないと開き直りましょう。
その上で、「自分が話したいと思う」スピードよりも、「自分で少しゆっくりだなぁと思う」スピードで話すようにすることです。
普通、私たちは頭に言いたい言葉が浮かんだら、すぐに言葉に出そうとします。頭の回転が速い人であればあるほど、たくさんの情報が次々に頭に浮かび、それをそのまま言葉にしようとします。
するとどうなるか。考えが頭に浮かぶスピードに、口がついていけなくなる。職場にいませんか?ものすごく頭がいいんだけど、しゃべるとなんだか聞き取りにくい人。原因はこのあたりにあると思いますよ。
スピードを落とせない場合、「文を意識して区切って話す」
それでもスピードが落とせない!という方。もう一つ方法があります。
それは「文を意識して区切って話すこと」です。
区切る場所は、意味の切れ目や文節です。
「ぶんをいしきしてくぎってはなす」と一息でしゃべるから、忙しく聞こえるのです。
「ぶんを」「いしきして」「くぎって」「はなす」と、一つ一つの意味を意識してそれぞれをしっかり話すようにするのです。
「次の言葉を早く言いたい!」という思いをどれだけ抑えられるかが大事なポイントです。
どんなに良い話も、聞き取ってもらえなければ意味がありません。一つ一つ丁寧に伝える。ここから意識してみてくださいね。
この記事は、2019年1月から12月まで週刊東洋経済に連載したコラム「必ず伝わる最強の話術」に 加筆修正を加えたものです。
最後にご紹介した「文を区切って話す」方法。これ、スピードの出し過ぎを防ぐだけでなく、聞き手に言葉を印象づけるのにも役に立ちます。「ぶんをいしきしてくぎってはなす」と間をあけずザーッと言ってみてください。すると、聞いている人の耳には言葉が残らず、流れて行ってしまうこともよく起こります。それを防ぐには、「文を」「意識して」「区切って」…と一つ一つの言葉の意味を確認しながら話すと、聞き手の頭に言葉が残るようになるんです。これ、私の実際にやっています。とーっても大事なテクニックですから忘れないでくださいね。
今回の内容を含んだ動画がこちらです。よろしければご覧になってみてくださいね。