第8回「黙ることを恐れない」

沈黙を恐れない

わかりやすい話し言葉のためには、話している様子を録音して、話す文章を見直すことを提案してきました。連載をお読みいただいている方の中には、ご自身の話を録音して聞き直した方もいらっしゃると思います。

今度は、文字ではなく音声面でチェックすべきポイントを挙げましょう。第3回で「早口」の問題は取り上げました。今回は、「黙ることの大切さ」についてです。

適度な間が取れない理由

文章を書いていたり、パワーポイントなどの資料を作っていたりすると、改行したり、コンテンツの中でスペースを空けたりして、見やすくすることは普通になさっていると思います。

しゃべるときも同じこと。ずーっとしゃべるよりも、適度な間があるほうが、はるかに聞きやすいですよね。
それは頭ではわかっている。でも、なかなか間がとれない。だらだらしゃべってしまう。なぜこうなってしまうのでしょうか?

最大の原因は、「沈黙が怖い」から。「とにかくなにか話さなければ」という気持ちから、「えーと」「あのー」などと言ってしまうんですよね。わかります。

でも、大丈夫です。「ある程度考えがまとまるまで」「堂々と」黙ってください。実は無駄なことばを言う代わりにしっかり黙ることこそ、伝わる話をするために最も必要なことなのです。

言葉が出ずに黙っている間、自分ではものすごく長い時間のように思いますよね。しかし、聞いている方は、それほどには感じていないものです。ご自身が講演会に行った時のことを思いだしてみてください。沈黙をたっぷりとりながら話す人に、「一体いつまで黙っているんだ?」と思ったことなど、ほとんどないと思います。

しっかり黙ることのメリット

むしろ、「しっかり黙ることのメリット」は、話すあなたにとっても、聞いている人にとってもたくさんあります。

まず話す側にとっては、沈黙している時間が一秒もあれば、次に話す内容の方向性だけでも考えられるはずです。ノープランで話し始めるよりもずっとわかりやすく話せます。

一方、聞いている側は、あなたの話が込み入った難しいものならば特にそうですが、文と文との間に沈黙があると、ほっとするはずです。それは、その沈黙の間に、さっき聞いたあなたの話を反芻・消化することができるからです。

こうした間がないとどうなるでしょうか?次から次へと新しい情報を聞かされると、聞いている方は息つく暇もなく疲れてしまいます。ちょうど、まだ口にものが入っているのに次々食べ物を放り込まれる感じです。どんなにおいしい食べ物でも勘弁してくれ、と思いますよね。

どうか自信を持って黙ってください。信じられないかも知れませんが、数々の話す現場を体験してきた私の実感です。沈黙は相手のためにとっているのだ、というくらいの気持ちでOKです。

それでも沈黙が耐えられない場合は「すみません、ちょっと言いたいことを整理させてください。」などと、焦らず心を込めて言ってみましょう。「頭の悪い奴だと思われるかも知れない」なんて心配は無用です。きっと相手は、「この人は誠実に話そうとしているんだ」と思ってくれますよ。

この記事は、2019年1月から12月まで週刊東洋経済に連載したコラム「必ず伝わる最強の話術」に 加筆修正を加えたものです。

黙ることの大切さ。今でこそエラソーに行っている私ですが、若い頃は全然できませんでした。今は、なぜできるようになってきたのか。おそらく最大の原因は、その頃に比べだんだんと頭の回転が鈍くなってきたということ(本音です)。次は、黙っていても平気だよ!という大胆さが身についてきたからのような気がします。うーん、これも年齢のせいかもしれませんね。
それくらい難しいことですので、少しでもできたらOK!そんな気持ちで、とにかく「黙る場数」を増やすことから始めてみませんか?
松本和也松本和也(まつもと・かずや) / 音声表現コンサルタント・ナレーター・司会・ファシリテーター。1967年兵庫県神戸市生まれ。私立灘高校、京都大学経済学部を卒業後、1991年NHKにアナウンサーとして入局。奈良・福井の各放送局を経て、1999年から2012年まで東京アナウンス室勤務。2016年6月退職。7月から「株式会社マツモトメソッド」代表取締役。アナウンサー時代の主な担当番組は、「英語でしゃべらナイト」司会(2001~2007)、「NHK紅白歌合戦」総合司会(2007、2008)、「NHKのど自慢」司会(2010~2011)、「ダーウィンが来た!生きもの新伝説」「NHKスペシャル(多数)」「大河ドラマ『北条時宗』・木曜時代劇『陽炎の辻1/2/3』」等のナレーター、「シドニーパラリンピック開閉会式」実況に加え、報道番組のキャスターなどアナウンサーとしてあらゆるジャンルの仕事を経験した。株式会社 青二プロダクション所属

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