「お医者さんの前でうまく話せないのです」という相談を何度か受けたことがあります。
診察室で「どうしました?」とすぱっと聞かれると、どこから話して良いかわからず、ドギマギしてしまう、というのです。
そんな質問を受けた時、私なりの経験でお答えしていたのですが、それが間違っていなかったのだと思えるテレビ番組がありました。
自分に向き合って頭の中を整理することが大切
それは、2019年8月に放送されたNHK「プロフェッショナル・仕事の流儀」で内科医の天野惠子先生を取り上げていた回です。先生は、更年期障害や微小血管狭心症など女性特有の病気に向き合い続ける、女性外来のパイオニアといわれている方です。
その先生の初診の時の様子が、とても参考になったのです。患者は、診察の予約の段階で、症状はもちろん、病歴・通院歴・治療内容などを「手紙」に書いてあらかじめ送ることになっているというのです。
天野先生は、その手紙を熱心に読み込んでから、なんと1時間半かけて初診を行っていました。ひとりの患者さんにそれだけの時間と労力を使えるお医者さんは、現実的にそういるとは思えませんが、天野先生が「患者の主治医は患者自身。患者は自分に向き合って頭の中を整理することが大切だ」という言葉がとても心に残りました。
事前にメモに書き出してみる
この方法、私たちにも参考にできることがあると思うのです。
いきなり長文の手紙を書いたとしても、受け取った先生も困ってしまうと思います。そこで、せめて「いつから、どんな症状があったのか。つらいのはどの部位か。」などを、思いつくままでいいのでメモに一度ざっと書き出してみるのです。
もし可能なら、書きだしたものをわかりやすい順番に並べ直します。現在の症状。ここにいたるまでの経過。これまでにも同じようなことがあったのか。あとは、その他のこれまでの病歴・治療歴などなど。
これだけの内容を、いきなりお医者さんの前でちゃんと話さなきゃと思うと、緊張してしまうのは当たり前です。
そうならないように、事前にメモを作っておくと、説明しやすくなるのはもちろん、それでもうまく話せないという人なら
そのメモをそのまま先生に見せ、「メモにまとめてきたのでご覧いただけますか」と言えば、きっとお医者さんの方も助かると思います。
病院では問診票を渡されることも多いのですが、それを病院に着いてからではなく、事前にやっておけば、書き忘れや伝え忘れが防げることも考えられますよね。
メモができない時の対処法
前もって聞かれるであろうことを事前にまとめておくというこの方法。実は、普通に話す場面でもそのまま使えます。
例えば、何かの会合に出席したとき、このままだと、どうやら挨拶しなくてはならない流れにあるようだ。。。ということありますよね。
そんな時、漫然と出番が来るのを待っていると、いざ話す場面になって、ついついとりとめもなく話してしまうもの。そうならないために、待っている間に話す内容を前もって書き出しておくのです。思いつくことを項目で書き出してみる。その項目をどの順番に話すか番号をつける。
メモがない場合はどうするか。私は、目立ちにくいところに行ってスマホで仕事のメールをしているようにしながら、話す内容の項目をスマホのメモに打ち込むようにしています。
全くのノープランで話すよりも、ずっと楽に話せるようになりますよ。
この記事は、2019年1月から12月まで週刊東洋経済に連載したコラム「必ず伝わる最強の話術」に 加筆修正を加えたものです。
話し方がうまくなりたい、という人は本当に多いです。しかし、その多くは「声をよくしたい」「あがらないようにしたい」など、自分の印象をよくしたいというものが多いという印象があります。もちろん、それは否定しません。しかし、話は相手に伝わるかどうか、それが一番大切だと思います。そのための工夫をする。その基本の一つが、話す内容を事前にまとめておく、ということだと思います。フリートークでうまく話せるには?というのは、その先の話。もちろん、適当な雑談ならそうではないですが、少なくとも込み入った業務上の話や心に残るスピーチなどは、その工夫は忘れないようにしてくださいね。