会社の人事部門の方から受ける相談で多いのが、学生の面接の仕方です。
この連載では、どちらかというと伝え方に重きを置いてきましたが、今回は話の引き出し方についてお話しします。
面接で大切なのは、意見より事実
私のノウハウをお話しする前に、人事・採用の専門家で関連著作も多い、株式会社人材研究所の曽和利光さんに採用面接の基本を聞きましたので、ご紹介しますね。
曽和さんによると、大切なのは「意見より事実」なのだそうです。「こんな場合あなたならどうするか」「自己アピールをしてください」など、学生の意見が入ってしまう質問ではなく、「どんなことをしてきた人なのか」しっかりと事実を聞いていくことを心がけるべきだといいます。事実といっても重視するのは結果ではありません。結果を生み出した行動とそこから類推できる思考や行動の傾向、すなわち学生の「人となり」を見ることに重きを置くようにすることがおすすめ、とのことでした。
「NHKのど自慢」で使った取材する心がけ
一方で、「そうした人となりを評価できるレベルまで事実を把握するのには、丁寧に具体的な話が出るよう質問する必要がある。そこが難しいんですよね。」ともおっしゃっていました。
その人らしさがわかる、具体的な話を聞き出すこと。私もアナウンサー時代、「NHKのど自慢」に出演される一般の方に取材するときに心がけていたのが、まさにこのことでした。
当たり前ですが、番組に出演するのは視聴者の方にとっては全く知らない人。そんな人に、普通に歌ってもらってもなかなか魅力的には映りません。その人にしてもらうためには、「どんな人なのかが具体的にわかるエピソード」が必要なのです。そんな話を限られた時間で聞き出すノウハウを、採用の現場で活かしていただけたらと思います。
面接に臨む学生さんは、たいていの場合緊張しています。そのような状態では、なかなか普段のその人の姿が見えません。まずは、話しやすい雰囲気をこちらで作らなくてはなりません。
のど自慢の取材も同じです。しかし、私は実は結構な人見知り。どうしても顔がこわばってしまいます。そこで、私はこんな方法をとっていました。その人のことを「自分の仲の良い友人」の「知り合いの人」だと思って話すようにするのです。
例えば、相手が若い学生さんだったら、初めて会う甥や姪だと思うようにしたのです。これが私にはしっくりきました。初対面でも共通の知人がいると思えば、なんだか自然な笑顔で話せたのです。面接の雰囲気がどうしても雰囲気が堅くなってしまう、という方は試してみてくださいね。
具体的なエピソードを聞き出すノウハウ
次に具体的なエピソードの聞き出し方。まず「そうですか~」「すごいですね~」「おもしろいですね~」などの相づちをうって、あなたが相手の話に興味を持っていることを伝えるようにします。
そして、相手の調子が出てきたところで具体的な質問です。例えば「そんなに頑張ったんですか。何日くらいかかりましたか?」「私なら無理だな~。そこまでやれたのは何か秘密があったんでしょ。教えてくれますか?」「そのとき、どんな言葉をかけたんですか?」など。具体的な数字・裏話・直接話法によるエピソード紹介などを相手の話に乗っかっている雰囲気を出しながら聞くようにするのです。その人が本当に経験した話、心で深く思ったことならいくらでも具体的な言葉が返ってきます。もし面接のために作り込んだエピソードなら、どこかで話が止まってしまうはずです。
大切なのは、詰問調にならないこと。寄り添うように丁寧に聞いてあげれば、内気な人でもきっと懸命に答えてくれるはずです。ぜひお試しを。
この記事は、2019年1月から12月まで週刊東洋経済に連載したコラム「必ず伝わる最強の話術」に 加筆修正を加えたものです。