決算発表や株主総会で経営者はどう話せばいいのかというご相談は、これまで数多く受けてきました。そしてその数は年々増えてきています。
特殊なケースではありますが、今回は企業にお勤めの方なら無関係とは言えない、いわゆるIRの現場での伝え方のポイントをご紹介します。
決算発表は、今後の経営について明るい希望がわくように
まず大前提として、IRの現場で最も大切な伝えるための原則からおさえておきましょう。それは、経営・財務状況、業績、今後の見通しなどについて、株主や投資家にしっかりと納得してもらうことです。
もっとはっきり言えば、自分が話すことで株価を下げたくない。できれば株を買い増ししてほしい。株価を高くしたいというのが本音だと思います。
ところが、私が聞いた決算発表のほとんどは、株価を下げたくないという話し方にはなっていても、株価を上げる話し方になっていないと言わざるを得ません。
とにかくミスがないように、株主から突っ込まれることのないように客観的な情報を伝えていればそれで十分。そんな伝え方です。気持ちはわかるのですが、それだけではもったいないと思います。
私はいつもお客様に、株主や投資家が今後の経営について明るい希望がわくような決算発表にしてもいいのでは、と提案しています。そんな伝え方のキーワードは「もてなしの心=ホスピタリティー」です。
知りたいのは「今後どんな未来が待っているか」のビジョン
実績などの正確な数字はもちろん重要です。しかし全ての数字を口頭で言う必要は本当にあるのでしょうか。多くの会社がそうなのですが、そうした細かな数字を淡々と読み上げる伝え方は、株主に対しちゃんと説明しましたよ、というアリバイ作りのように私には見えます。
それよりも、普通詳しい資料は株主の手元に配布してあるはずですから、資料を見ればわかることは省く。財務状況や実績はもちろん明らかにしますが、「簡単にまとめます」「大切な部分だけ申し上げます」「詳しい数字はお手元の資料○ページをご覧ください」「ご注目いただきたいのは…」などのことばを添えて、本当に見てもらわなくてはいけない部分を明示するのです。
こうするだけで、株主が退屈になるリスクを下げることができます。株主にとって苦痛な時間をなるべく短くしてあげるのです。こんなところから少しずつ変えてみてはどうでしょう。
株主が知りたいのは「この会社の株を持っていて、大丈夫なのか」の一点です。実績などの正確な数字以上に大切なのは「今後どんな未来が待っているか」というビジョンです。
これを明確な根拠を示しながらわかりやすく伝える。具体的なイメージが浮かぶように、スライドに動画などビジュアル情報を多く含ませる。原稿を読み上げるのではなく、見なくてもスムーズに話せるように何度も事前に練習をする。
もちろん、連載で何度も申し上げた、「概要から話す」「文は短く」「徹底的に語り掛ける」ことは必須です。
「もてなしの気持ち」を持てば、IRは変わる
冒頭の挨拶だって「本日はお忙しい中~、決算発表会を始めさせて頂きたいと思います」と紋切り型の挨拶を言わないだけでも、退屈な雰囲気を変えられます。
「ところで昨日のラグビーはご覧になりましたか?日本頑張りましたね。私もあせってノックオンしないよう落ち着いて進めるつもりです」など、ひとことユーモアを交えるだけでいいのです。
退屈させないよう、自社のことについてわかりやすくお伝えしたい、という「もてなしの気持ち=ホスピタリティー精神」を持ってメッセージを伝えるようにすれば、一般的につまらないと思われているIRも変わっていくはずです。
これまで続いてきたフォーマットを変えるのは、大きな会社であればあるほど難しいでしょう。しかし、企業にとって重要度が増す一方のIR部門が変わらなければ、本当の意味での株主や顧客重視の経営にはならないはずです。
IRの伝え方を、聞いている人にわかりやすく、退屈させることなく、真摯に伝えるように工夫を重ねる姿勢こそ、最も大切な気がします。
この記事は、2019年1月から12月まで週刊東洋経済に連載したコラム「必ず伝わる最強の話術」に 加筆修正を加えたものです。