前回に続いて、声のお話です。
「もっと抑揚をつけて話したいのですが、どうすればいいですか?」と質問されることがあります。
この「抑揚」というのがやっかいなんです。というのも、「抑揚をつける」ことを「歌を歌うように、単純に音程を上下させればよい」ことと解釈している方が少なくないからです。
エレベーターガール(古い表現ですみません)の方がこんな言い方をしているのを聞いたことはありませんか?
「ぇ、ごかぁい、ぅふじぃんふくうりばぁでぇ、ござぁいまぁっすぅ。」
これ、「5階、婦人服売り場でございます」と言っています。音を極端に上下させている感じ。タレントの柳原可奈子さんが若者向けショップの店員さんのまねをしているイメージです。
こうした音程の上下は、確かにプロっぽく聞こえることもあります。イベントのコンパニオンの方や受付などの方が案内をしてくれているのが、ちょうどそんな感じです。
ただ、確かに雰囲気はあっても、中身をしっかりと伝えるビジネスの現場にはなじみにくいものです。
では「抑揚をつけたい」とはどういうことなのか?私の経験では「平板にベターっと聞こえるの防ぎたい」という意味で言っている方が、ほとんどです。
自分では一生懸命話しているのに、聞いている人には「なんだか聞いていて退屈な感じ。眠いんだよね」などと言われてしまう。そこをなんとかしたいのです。
自分の話が、平板に聞こえる理由
「平板に聞こえる」理由は、実は簡単です。それは「ずっと同じような調子で話している」から。
もう少し詳しく言うと、同じような調子というのは、ここまで話した音程の上下だけでなく、声の強さ、スピード、間などがあまり変わらないということです。
どういうイメージなのか、書きことば・文章に例えてみましょう。平板な話し方は、文章でいうと、句読点も打たず、改行もせず、大切なところで文字の色や大きさも変えない文章を、延々読まされるイメージです。
そんな文章、どう思いますか?きっと「読みにくい」「どこが大切な部分かわからない」と思いますよね。そもそも「読む気にならない」という方もいるでしょう。
同じような声の高さや強さで、同じようなスピードや間合いで話していると、聞いている方は同じように「どこが大切かわからない。そもそも聞く気にならない」と感じてしまうのです。
わかりやすく聞こえる工夫
大切な言葉のところだけゆっくり話す。その言葉の前でたっぷり「間」をとる。そこだけさっと緊張感のある声に変える。こんな工夫をすることで、聞いているほうは「あ、ここは大切な部分なのだな」とラクに気づけます。
文章だと自然に行っている、改行や文字の変化などの工夫を、話すときにもやってみませんか。
最初はうまくいかなくても、仕方ありません。そんなスキル、学校では習ってこなかった方がほとんどなのですから。
まずは、ご自身の話し方を聞き直し、聞いている人がわかりやすく聞こえているか、確認してみてください。
もし平板に聞こえたら、「間」「スピード」「音程」「強弱」などの変化を、最初はやりすぎかなと思うくらいにやってみてください。何回もチャレンジする内に、ちょうど良い加減がわかりますよ。
この記事は、2019年1月から12月まで週刊東洋経済に連載したコラム「必ず伝わる最強の話術」に 加筆修正を加えたものです。
この「抑揚がない」問題。今の仕事を始めて、多くのお客様がご自分の話し方に感じている「もやっ」とした違和感の正体だと思い至るようになりました。いつも音楽のたとえで申し訳ありませんが、音楽が人の心をひきつけるかどうかも、この平板さを避けられているかどうかで決まると思っています。例えばドラムなんて、正確さだけを追求すれば機械でたたけば、手間もかからず楽な気がします。でもそうはいかない。ビートルズの曲をコピーしようと自宅録音したときに、まず違ったのがドラムでした。リンゴ・スターのあの独特のノリがあってのビートルズなのだということを痛感したのです。ただ言葉を発するのではなく、そこに「思い」を込めて相手に届ける工夫。これが話すときに最も欠かせないことなのだと思っています。