第14回「声が通らないのではなくて・・・」

キャッチボール

「私、声が通らないんです。」

結構あるんです、ご自分の声に悩んでいらっしゃるという相談。

しかし、実際にその方の話している声は、確かに小さめではあるものの、声が通らずに聞こえにくいというレベルではないことがほとんどです。

どうしてそういう指摘をされてしまうのか?今回は「声が通らない」と思っている方に向けてのお話です。

声が通らない≠声質や声量の問題

結論をいうと、多くの場合そういう方は、「声が通らない」という声質や声量の問題ではなく、他の原因があって結果的に「何を言っているのか聞き取りにくい」ということがほとんどです。

聞き取りにくい原因の一つ。それは、ひとことひとことはっきりと発音していない、あるいは早口過ぎることがあげられます。

そういう方の多くは、話している文章の最後の部分が、こしょこしょっという感じで、早口になってしまう傾向があります。早く話し終わって楽になりたいと思うのかもしれません。

一方聞いているほうは、「ん?何を言っているの?」と思って「もう一度言ってくれませんか?」と返す。すると話した本人は「あ、自分の声が小さかったんだ」と、声に問題があると誤解してしまうんですね。

ちゃんと聞き手に向かって声を発していない

声が聞こえにくいもう一つの原因は、「声を届ける方向が間違っている」場合です。

こんな人、見たことありませんか?プレゼンに出てきたのはいいけれど、手元資料やパソコン画面、スクリーンに映る資料を交互に見ながらわーっと話す人。

そういう人のプレゼンの内容ってほぼ伝わってこないはずです。その理由こそが、話している人が「ちゃんと聞き手に向かって声を発していない」からなのです。

どうすればいいのでしょうか?ヒントは多くの方が子どもの頃にやったであろう「キャッチボール」にあります。

相手に届きやすいボールを投げる

本格的ではなくても、友だちなどとキャッチボールをしたことはありますよね?その時ボールはどこにむかって投げますか?相手が捕りやすいところ、胸元あたりをねらって投げますよね。あさっての方向に投げる人はいないはずです。実は話す時もこの気持ちを持ってほしいのです。相手の胸元に言葉のボールを投げるイメージです。

相手がたくさんいる場合は、一人一人の胸元に投げるイメージで。捕りやすいようにゆっくりしたフォームでふわっと投げるんですよ。いきなり速い球だと捕りにくいですからね。

言葉のボールは、放物線を描いて相手に届けるつもりで。遠い相手には少し高いところを狙って山なりのボール、近い相手にはほぼ直線的な軌跡を描いているイメージでいくのです。

私が声の出し方を教えるときは、最初は近くに立って「ここに向かってしゃべってください」とお願いします。そこから距離をだんだん遠くし、最終的には部屋の端っこまで行き、そこにむかって声を出してもらうようにしています。

するとさっきまで声が出ないと言っていた人が、遠くにいる私にちゃんと聞こえるように話せるのです。そんな方の感想は「話すって体力いるんですね」ということ。そうなんです。話すというのは本当に言葉というボールを相手に届けるイメージなんです。

間違っても、よだれのように口から下向きにだらだら流れるように、話さないようにしてくださいね。

この記事は、2019年1月から12月まで週刊東洋経済に連載したコラム「必ず伝わる最強の話術」に 加筆修正を加えたものです。

今回は、特にものすごく抽象的な表現になってしまいました。でも、誰かに向かってちゃんと声を届けるという感覚。これ、本当に大切なことなんです。言葉を受け取る人を意識しないまま話す人って多い気がしています。うまく話すよりも、ちゃんと相手にメッセージを届ける。優しいボールを投げてあげてくださいね。
 
松本和也松本和也(まつもと・かずや) / 音声表現コンサルタント・ナレーター・司会・ファシリテーター。1967年兵庫県神戸市生まれ。私立灘高校、京都大学経済学部を卒業後、1991年NHKにアナウンサーとして入局。奈良・福井の各放送局を経て、1999年から2012年まで東京アナウンス室勤務。2016年6月退職。7月から「株式会社マツモトメソッド」代表取締役。アナウンサー時代の主な担当番組は、「英語でしゃべらナイト」司会(2001~2007)、「NHK紅白歌合戦」総合司会(2007、2008)、「NHKのど自慢」司会(2010~2011)、「ダーウィンが来た!生きもの新伝説」「NHKスペシャル(多数)」「大河ドラマ『北条時宗』・木曜時代劇『陽炎の辻1/2/3』」等のナレーター、「シドニーパラリンピック開閉会式」実況に加え、報道番組のキャスターなどアナウンサーとしてあらゆるジャンルの仕事を経験した。株式会社 青二プロダクション所属

マツモトメソッドのスピーチ・コンサルティング

トップの伝える力が、企業価値を左右する時代です。

エグゼクティブの皆さまが発するメッセージは、動画でそのままクライアントや消費者に伝わる時代。
トップの方の伝える力が高ければ、最も強力なブランディングツールとなります。
表面を飾るだけの話し方レッスンではなく、メッセージそのものを聞き手に響くものに磨き上げ、自身の持ち味を生かした説得力ある話し方を身につけましょう。

マツモトメソッドでは、「プライベート・レッスン」「グループ・セミナー」の2つのコースをご用意し、みなさまのスピーチ、プレゼンテーションが成功されるようご支援いたします。


マツモトメソッドのスピーチ・コンサルティング詳細はこちら

マツモトメソッドのSNS