「私、声が通らないんです。」
結構あるんです、ご自分の声に悩んでいらっしゃるという相談。
しかし、実際にその方の話している声は、確かに小さめではあるものの、声が通らずに聞こえにくいというレベルではないことがほとんどです。
どうしてそういう指摘をされてしまうのか?今回は「声が通らない」と思っている方に向けてのお話です。
声が通らない≠声質や声量の問題
結論をいうと、多くの場合そういう方は、「声が通らない」という声質や声量の問題ではなく、他の原因があって結果的に「何を言っているのか聞き取りにくい」ということがほとんどです。
聞き取りにくい原因の一つ。それは、ひとことひとことはっきりと発音していない、あるいは早口過ぎることがあげられます。
そういう方の多くは、話している文章の最後の部分が、こしょこしょっという感じで、早口になってしまう傾向があります。早く話し終わって楽になりたいと思うのかもしれません。
一方聞いているほうは、「ん?何を言っているの?」と思って「もう一度言ってくれませんか?」と返す。すると話した本人は「あ、自分の声が小さかったんだ」と、声に問題があると誤解してしまうんですね。
ちゃんと聞き手に向かって声を発していない
声が聞こえにくいもう一つの原因は、「声を届ける方向が間違っている」場合です。
こんな人、見たことありませんか?プレゼンに出てきたのはいいけれど、手元資料やパソコン画面、スクリーンに映る資料を交互に見ながらわーっと話す人。
そういう人のプレゼンの内容ってほぼ伝わってこないはずです。その理由こそが、話している人が「ちゃんと聞き手に向かって声を発していない」からなのです。
どうすればいいのでしょうか?ヒントは多くの方が子どもの頃にやったであろう「キャッチボール」にあります。
相手に届きやすいボールを投げる
本格的ではなくても、友だちなどとキャッチボールをしたことはありますよね?その時ボールはどこにむかって投げますか?相手が捕りやすいところ、胸元あたりをねらって投げますよね。あさっての方向に投げる人はいないはずです。実は話す時もこの気持ちを持ってほしいのです。相手の胸元に言葉のボールを投げるイメージです。
相手がたくさんいる場合は、一人一人の胸元に投げるイメージで。捕りやすいようにゆっくりしたフォームでふわっと投げるんですよ。いきなり速い球だと捕りにくいですからね。
言葉のボールは、放物線を描いて相手に届けるつもりで。遠い相手には少し高いところを狙って山なりのボール、近い相手にはほぼ直線的な軌跡を描いているイメージでいくのです。
私が声の出し方を教えるときは、最初は近くに立って「ここに向かってしゃべってください」とお願いします。そこから距離をだんだん遠くし、最終的には部屋の端っこまで行き、そこにむかって声を出してもらうようにしています。
するとさっきまで声が出ないと言っていた人が、遠くにいる私にちゃんと聞こえるように話せるのです。そんな方の感想は「話すって体力いるんですね」ということ。そうなんです。話すというのは本当に言葉というボールを相手に届けるイメージなんです。
間違っても、よだれのように口から下向きにだらだら流れるように、話さないようにしてくださいね。
この記事は、2019年1月から12月まで週刊東洋経済に連載したコラム「必ず伝わる最強の話術」に 加筆修正を加えたものです。