一度聞いてすぐ理解できる話し言葉にするには、とにかく文を短くすること。
具体的な方法として、これまで「述語を早く言う」「倒置法を使う」ことをご紹介してきました。今回が最後の方法です。
文のテンポを良くし、読みやすくなる体言止め
その方法とは「体言止め」。国語の時間にも習ったと思いますが、文の最後を体言=名詞や代名詞で終えることです。この文章の最初でもすでに使いましたね。文章を書くとき、時々リズムを変えて文章のテンポを良くしたり、文を短くできるため読みやすくなるなどの効果があります。話し言葉でも同様で、特にプレゼンテーションなどではさらに効果は大きくなるんです。
こんな例文で考えてみましょう。あなたが話を聞いているイメージで読んでくださいね。
「SaaSやIoTといったインターネットを基盤にした技術が普及しつつありますけれども、今後はAI やビッグデータなども活用した国際競争力を持ったビジネスを構築していくことが求められています。」
難しい内容ではないのですが、音で聞いていると最初に言ったことが何だったのか、少し思い出しにくい長さの文章です。これを短くするには、文のちょうど真ん中、「普及しつつあります」で二つに分けるのが普通ですが、実際に話してみると、まだ長く感じます。そこで、体言止めを積極的に使います。
「SaaS。IoT。インターネットを基盤にした技術。普及しつつあります。今後はAI。ビッグデータ。これらを活用した国際競争力を持ったビジネス。そんな事業を構築していくことが、求められています。」
ここまで文を切るの?と驚かれたかもしれません。文字面だけ見ればなんともぶっきらぼうで乱暴な文章、いや、文章とさえ言えないかもしれません。
しかし、実際に声に出して、二つの文を比べてみてください。おそらく後者の方が話しやすく、聞きやすいはずです。
伝わる話し言葉の最大のポイントは、極論すれば「文をいかに短くできるかにかかっている」だと私は思っています。そのために有効なのが、勇気を持って体言止めで文を切ることです。
トヨタ自動車社長のスピーチを体言止めすると
もう一つ、ビジネスの現場で話された文章をご紹介しましょう。こちらは、ある会社の社長が決算発表で話したコメントです。(トヨタ自動車豊田章男社長2018年3月期決算発表 IR情報のページに公開されています。12分8秒のあたりです。)
100年に一度の大変革の時代を、「100年に一度の大チャンス」ととらえ、これまでにないスピードと、これまでにない発想で、自分たちの新しい未来を創造するためのチャレンジをしてまいります。
社長の覚悟と志がしっかりと込められた素晴らしいメッセージになっていると思います。もちろんこのままでもいいのですが、もっと言葉を聞き手に強く届けるためには、体言止めを大胆に使って、例えばこんな風にもっと文を短くしても良いと思います。
「100年に一度の大変革の時代。しかし、私たちはこうとらえたい。「100年に一度の大チャンス」だ、と。これまでにないスピード。これまでにない発想。自分たちの新しい未来を創造する。そんなチャレンジをしていきます。」
いかがでしょうか?話す側にとっては言葉に力を込めやすい。聞き手にとっては言葉が力強く迫ってくる。そんなメリットがあるこの方法。ぜひ実践してみてください。
この記事は、2019年1月から12月まで週刊東洋経済に連載したコラム「必ず伝わる最強の話術」に 加筆修正を加えたものです。