第27回「述語をなるべく早く言う」

前回、植松努さんのプレゼンテーションこそ、多くの皆さんにとってのお手本になる、とお話しました。植松さんの話がわかりやすい理由の一つは「一文が短いこと」です。実は、この文を短くすることは言うのは簡単ですが、実際やってみるとなかなかできないものです。そこで今回は、私が話すときに使っている一つのコツをご紹介します。

それは、「述語をなるべく早く言う」ことです。

内容を盛り込むと、述語が遠くになる日本語

例えば、「私はこの商品をお勧めします。」いう文の述語は「お勧めします」ですよね。ではこの文が、次のようにいろいろな内容を盛り込んでくると、どうでしょうか?

「私は、弊社の製品開発部全員が丸1年をかけ、総費用2億円をつぎ込んで作り出したこの商品をお勧めします。」

お勧めします、という述語がずいぶん後ろになりましたね。日本語は、内容を多く盛り込もうとすると、述語が出てくるのが遅くなってしまうという特徴があります。

述語が遅くなると都合の悪いことが起きます。この文を耳で聞いてみた時を想像してみてください。文の途中で、「私は…、ん?結局どうしたの?」とちょっとイライラしないでしょうか?

話している方はあまり感じないのですが、聞いている方は何が言いたいのかわからないまま話を聞かされている感じがする。一度くらいならまだしも、このような文章を延々続けられたらつらいですよね。

述語を主語の直後に置いてみると

では、先ほどの文章の述語を、主語の直後に置いてみましょう。

「私はお勧めします」。当然聞いている方は、「何を?」って思いますよね。その時、こう続けたとしたらどうでしょう?

「弊社の製品開発部全員が丸1年をかけ、総費用2億円をつぎ込んで作り出したこの商品です」。まだ長いですね。肝心の「この商品」にいろんな説明がくっつきすぎています。

そこで、この商品についての説明は全て後回しにします。

「私はお勧めします。この商品です。」残りは、あとにこんな風に続けてみましょう。

「弊社の製品開発部全員が作り出しました。丸1年かかりました。総費用は2億円です。」

いかがでしょうか?「全員が作った」「丸一年」「総費用2億円」という情報を、別々の文に区切って、一つ一つ置いていっただけです。一つ一つの文を見ると、あまりにあっさりしすぎていて素っ気なく見えるかもしれません。でも、最初の長い文と短い文に区切ったものを、声に出して話してみてください。きっと、あとの短い文の連続のほうが聞きやすく、話すのも楽だと思います。

このような情報の並べ方、気づいた方もいらっしゃるでしょう。そう、英語の説明の仕方です。先ほどの文を英語にすると、こうなります。

I recomend this product which all the members of our Product Development Department produced. It took a year, and spent 2 billion yen.

英語では、「(長い文章)は重要だ」は、「It is  important that~」と言いますよね。

あれ、述語を早く言って、何が言いたいかを早くわからせる合理的な方法です。この意識を日本語に持ち込んでみるのです。

この方法は、長くなりがちな日本語の文章をわかりやすいものにするヒントになると思っています。お試しください。

この記事は、2019年1月から12月まで週刊東洋経済に連載したコラム「必ず伝わる最強の話術」に 加筆修正を加えたものです。

文を短くする。これこそ、伝わりやすい話し方をするための最大のポイントだと気づいたのは、私がアナウンサー3年目くらいのことでした。自分の放送でのしゃべりは、流暢なのに心に残らない。私が憧れていた先輩アナウンサーのしゃべりは、すごく心に届く。なぜなのかわからず、上司に相談しました。彼は「その先輩の話していることを文字に書き起こしてみたら?」と言ってくれました。すぐに分かりました。文が短い!あまりにスムーズに聞こえるため、そのことすら意識できなかったのです。しかし、そこに気づいたものの真似するのには時間がかかりました。最初にやったのが、短い文章で話す原稿を書く練習です。その時気づいた方法が、述語を早く言うことだったのです。何度か書いてみれば感覚はわかると思います。ぜひぜひ実践してみてくださいね。

松本和也松本和也(まつもと・かずや) / 音声表現コンサルタント・ナレーター・司会・ファシリテーター。1967年兵庫県神戸市生まれ。私立灘高校、京都大学経済学部を卒業後、1991年NHKにアナウンサーとして入局。奈良・福井の各放送局を経て、1999年から2012年まで東京アナウンス室勤務。2016年6月退職。7月から「株式会社マツモトメソッド」代表取締役。アナウンサー時代の主な担当番組は、「英語でしゃべらナイト」司会(2001~2007)、「NHK紅白歌合戦」総合司会(2007、2008)、「NHKのど自慢」司会(2010~2011)、「ダーウィンが来た!生きもの新伝説」「NHKスペシャル(多数)」「大河ドラマ『北条時宗』・木曜時代劇『陽炎の辻1/2/3』」等のナレーター、「シドニーパラリンピック開閉会式」実況に加え、報道番組のキャスターなどアナウンサーとしてあらゆるジャンルの仕事を経験した。株式会社 青二プロダクション所属

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