「プレゼンテーションの見本になるような方はいますか?」とよく質問されます。
いらっしゃいます。株式会社植松電機の植松努社長です。
ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、植松さんは、建設機械に取り付ける特殊マグネット装置の製造販売のほか、ロケットの打ち上げ開発などを行う会社を経営しています。その一方、講演活動でもお忙しくされています。
こちらは、TEDで植松さんが講演された動画です。
非常に淡々とお話になるのですが、ぐいぐい引き込まれて行き、最後は感動の涙があふれます。中身については実際の講演や動画をご覧いただくとして、ここではどんなところがプレゼンテーションの見本になるかということに絞ってお話しします。
ふだんの言葉遣いで、隣の人に話すよう語りかける
見本になることの一つ目は「自然体である」こと。
プレゼンテーションというと、スティーブ・ジョブズのようなかっこいい話し方を真似しようとする方、多いですよね。私はあまりお勧めしません。変に背伸びをしているようで、見ているほうが恥ずかしくなるものが多いと思うからです。一般的な日本人が急に意識的に身振り手振りを交えて話すなんて、そもそも無理がありますよね。だったら話す中身をわかりやすくするのに時間を使いませんか。
その点植松さんは、仕事着で壇上に現れ、大げさなボディーアクションをすることはありません。今はやりの「歩きながら見得を切るように話す」こともありません。ほぼ棒立ちです。それでも心の奥深くに届くのです。ポイントは2つ。「ふだんの言葉遣いで話している」こと。もう一つは「隣にいる人に話すように語りかけている」ことです。
「であります」「でございます」調や「業界用語、漢語、カタカナ連発」もありません。とにかくわかりやすい言葉で、肩の力を抜いて自然に話しているのです。この話し方をすると、聞いているほうも肩の力が抜けて自然に耳を傾けるようになります。
短い文章で話す
見本になることの二つ目は、「文が短い」こと。
冒頭はこんな風に始まります。「思うは招くっちゅうお話です。僕の母さんが、中学生の時に教えてくれた言葉です。思ったらそうなるよっていう意味です。思い続けるって大事です。」
ほぼこれくらいの長さの文章が続きます。聞いていて本当に心地いいんです。ストレスもなく、言葉がすっと心に届いてきます。
初めて植松さんの講演を聴いた時には驚きました。私がアナウンサーをしていた時、何年もかけてやっとたどり着いた「短い文章で話す」というワザを、さらっと実践されているのですから。
先日、SNS上で植松さんに「どうやってこの話し方を身につけたんですか?」と聞きました。
「私は人見知りで話すのが苦手でした。話せるようになったのは目的があったからです。自分の可能性や自信を失わないでほしい、と子どもたちに伝えようと頑張った結果だと思います」ということでした。
さらっとおっしゃっていますが、数多くの講演を重ねながら身につけた、修練の結果であることは、話す仕事をしている者としてよくわかります。是非、動画や植松さんの著書などでその語り口を参考になさってください。
この記事は、2019年1月から12月まで週刊東洋経済に連載したコラム「必ず伝わる最強の話術」に 加筆修正を加えたものです。
Steve Jobsの真似をしなければ!という思い込みを捨てませんか? 私は多くのお客様にそう言ってきました。書店に行けば、Jobsをはじめ、世界の著名人のプレゼンテーションに学ぼうという本が溢れています。その事自体はとてもいいことだと思います。しかし、そのまま真似をするのは、やめたほうがいいと思っています。理由は2つ。言葉が違う。そして文化が違うからです。例えば、英語は普通に話すだけでも、音の高低や強弱が豊かで抑揚がある言語です。日本語で同じように作為的に抑揚をつけようとすると、一つ間違うと、詐欺まがいのセミナーの講演を聞かされているような感じになる恐れがあります。文化の違いもあります。胸を張って両手を広げて歩きながら話す。欧米のプレゼンテーションの方法では、この自信を持って話している形が大切と言われます。でも、そんな人、今までの日常生活で見たことありますか?普段やらないことを急にやっても、やっている方も見ている方もちょっとこっ恥ずかしい思いをしてしまいそうです。もっと普段どおり自然に話しても、聞き手の心は動く。それを植松さんのプレゼンテーションは教えてくれている気がしますが、いかがでしょうか?