仕事で、様々な会社から社長のプレゼンテーションのトレーニングを依頼されます。その時、毎回不思議に思うことがあります。
それは、話すのに自信がある社長ほど原稿を書こうとしない方が多い、ということです。
原稿があると棒読みになってしまう
その方の気持ちはわかります。しっかり書き込んだ原稿がなくても、スライドにおおよその内容が書いてあれば、すらすら話せるからですよね。そんな方が多く口にするのは「原稿を書いてしまうと、棒読みになってしまうんですよ。原稿がないほうが、自然に話せるんです」ということ。確かにそうかもしれません。それでも私はいつもこう答えています。「いえ、だまされたと思って必ず原稿は書いてください」と。
原稿は書かなくてもいい、という方は、話している時、こんな感じではないでしょうか?何かを話していると次々とアイデアが浮かんでくる。それをどんどん付け加えていく。話がどんどん肉付けされていく感じがして、思うまま話せているという充実感を感じるときもある。実は私も、かつてはそうでした。これが落とし穴なのです。
例えば、自社で開発した新たなサービスの概要をはじめに話しているとしましょう。話しているうちに、発表したサービスの中でも自信のある特定の機能について、詳しく語りたくなる。その機能の詳細を話しているうちに、開発途中の苦労話が浮かび、軽くふれておこうと思う。軽くふれるつもりが観客の反応が良いものだから、ついつい長話になる。これだけ話を聞いてくれる観客だったら、もっと未来のビジョンを語って自社の強力なサポーターになってもらおうと考え、未来の話を語り出す。。。本人は、その場の空気に合わせて話していて気持ちがいいのです。
しかし、よく考えれば、今回は新サービスの概要を語るためのプレゼンテーションだったはず。しかも、それぞれの内容もある意味行き当たりばったりでつなげていく話なので、一貫したテーマがぼけてしまい、あとで思い返そうとしても記憶に残りにくい。
その場で考えながらなので、無駄な言葉や言葉癖、不要な繰り返しなど、聞いている人にとって邪魔になる雑情報がたくさん入った話し方になる。これではプレゼンテーションは成功するはずもありませんよね。
プレゼンで大切なのは、目の前の人に語りかけること
プレゼンテーションは、何かを聞き手に伝え行動を起こしてもらうことが目的です。それが達成されなければ、どんなに話が面白くても意味がありません。大切なのは、伝えたい中身がはっきり伝わること。サービス精神たっぷりにあれこれ話すのではなく、むしろ余計なことはなるべく話さない方が、聞き手にとっては結果的に親切になります。
話す時に頭が暴走しないように、しっかりしたガイドを用意しておく。その役割を果たすのが、あらかじめ用意した原稿なのです。
原稿があると棒読みになってしまう、という方はご自分で思い出してください。その原稿、本番で読まなくてもいいくらい何度も口に出して練習しましたか?プレゼンで大切なのは、原稿を読むのではなく、目の前の人に語りかけることです。
原稿がなくても聞き手に語り掛けられるようにしておくこと。原稿はあくまで、忘れた時の保険としてそこに置いておくだけ。そんな状態になるまで練習してくださいね。
この記事は、2019年1月から12月まで週刊東洋経済に連載したコラム「必ず伝わる最強の話術」に 加筆修正を加えたものです。