第23回「話すのが得意な人ほど原稿の用意を!」

原稿

仕事で、様々な会社から社長のプレゼンテーションのトレーニングを依頼されます。その時、毎回不思議に思うことがあります。

それは、話すのに自信がある社長ほど原稿を書こうとしない方が多い、ということです。

原稿があると棒読みになってしまう

その方の気持ちはわかります。しっかり書き込んだ原稿がなくても、スライドにおおよその内容が書いてあれば、すらすら話せるからですよね。そんな方が多く口にするのは「原稿を書いてしまうと、棒読みになってしまうんですよ。原稿がないほうが、自然に話せるんです」ということ。確かにそうかもしれません。それでも私はいつもこう答えています。「いえ、だまされたと思って必ず原稿は書いてください」と。

原稿は書かなくてもいい、という方は、話している時、こんな感じではないでしょうか?何かを話していると次々とアイデアが浮かんでくる。それをどんどん付け加えていく。話がどんどん肉付けされていく感じがして、思うまま話せているという充実感を感じるときもある。実は私も、かつてはそうでした。これが落とし穴なのです。

例えば、自社で開発した新たなサービスの概要をはじめに話しているとしましょう。話しているうちに、発表したサービスの中でも自信のある特定の機能について、詳しく語りたくなる。その機能の詳細を話しているうちに、開発途中の苦労話が浮かび、軽くふれておこうと思う。軽くふれるつもりが観客の反応が良いものだから、ついつい長話になる。これだけ話を聞いてくれる観客だったら、もっと未来のビジョンを語って自社の強力なサポーターになってもらおうと考え、未来の話を語り出す。。。本人は、その場の空気に合わせて話していて気持ちがいいのです。

しかし、よく考えれば、今回は新サービスの概要を語るためのプレゼンテーションだったはず。しかも、それぞれの内容もある意味行き当たりばったりでつなげていく話なので、一貫したテーマがぼけてしまい、あとで思い返そうとしても記憶に残りにくい。

その場で考えながらなので、無駄な言葉や言葉癖、不要な繰り返しなど、聞いている人にとって邪魔になる雑情報がたくさん入った話し方になる。これではプレゼンテーションは成功するはずもありませんよね。

プレゼンで大切なのは、目の前の人に語りかけること

プレゼンテーションは、何かを聞き手に伝え行動を起こしてもらうことが目的です。それが達成されなければ、どんなに話が面白くても意味がありません。大切なのは、伝えたい中身がはっきり伝わること。サービス精神たっぷりにあれこれ話すのではなく、むしろ余計なことはなるべく話さない方が、聞き手にとっては結果的に親切になります。

話す時に頭が暴走しないように、しっかりしたガイドを用意しておく。その役割を果たすのが、あらかじめ用意した原稿なのです。

原稿があると棒読みになってしまう、という方はご自分で思い出してください。その原稿、本番で読まなくてもいいくらい何度も口に出して練習しましたか?プレゼンで大切なのは、原稿を読むのではなく、目の前の人に語りかけることです。

原稿がなくても聞き手に語り掛けられるようにしておくこと。原稿はあくまで、忘れた時の保険としてそこに置いておくだけ。そんな状態になるまで練習してくださいね。

この記事は、2019年1月から12月まで週刊東洋経済に連載したコラム「必ず伝わる最強の話術」に 加筆修正を加えたものです。

話すのが苦にならないという人ほど、原稿を書いていない。本人は話せていると思っている。身近な周囲の人も「さすが○○さんは話がうまい」という。本当に良くある光景です。しかし、そうした方の話を予備知識のない人が聞くと、話があっちこっち行ったり、妙に早口だったりして話している本人が思っているほど伝わっていないものなんです。ここに気づくには、当事者の視点では無理。第三者がチェックする必要があります。そんなときこそ、私のような仕事をしている人の出番!…って最後は宣伝でした。。。

松本和也松本和也(まつもと・かずや) / 音声表現コンサルタント・ナレーター・司会・ファシリテーター。1967年兵庫県神戸市生まれ。私立灘高校、京都大学経済学部を卒業後、1991年NHKにアナウンサーとして入局。奈良・福井の各放送局を経て、1999年から2012年まで東京アナウンス室勤務。2016年6月退職。7月から「株式会社マツモトメソッド」代表取締役。アナウンサー時代の主な担当番組は、「英語でしゃべらナイト」司会(2001~2007)、「NHK紅白歌合戦」総合司会(2007、2008)、「NHKのど自慢」司会(2010~2011)、「ダーウィンが来た!生きもの新伝説」「NHKスペシャル(多数)」「大河ドラマ『北条時宗』・木曜時代劇『陽炎の辻1/2/3』」等のナレーター、「シドニーパラリンピック開閉会式」実況に加え、報道番組のキャスターなどアナウンサーとしてあらゆるジャンルの仕事を経験した。株式会社 青二プロダクション所属

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