社長、役員の方などのプレゼンテーションやスピーチを聞いていて、いつも思うことがあります。
それは「頭のいい人ほど話が分かりにくくなる」傾向にあるということです。
論理的におかしいということではないんですよ。論理的だからこそ逆に話がわかりにくくなる、という落とし穴についてのお話です。
エグゼクティブのプレゼンが分かりづらい理由
社長や役員、あるいは社を代表してプレゼンする方は、立場上、どうしても物の言い方は慎重にならざるを得ません。心の中には「あとで厳しい指摘を受けないようにしなければ…」という思いが常にあると思います。
そのため、前提条件や例外などがあることを、先に断っておきたくなってしまう。結論に至るまでの過程を正確に理解してもらえるよう、論理の積み重ねを順を追って説明したくなる。あるいは、文の最後が「~ということも考えられる」など、断定を避ける表現を使ってしまう。
他にも、ロジカルシンキングの教科書に必ず出てくるMECE(重複なく・漏れなく)を意識するあまり、それらを押さえた上でないと、話の本題や結論が言えない。
このようなこと、読者の方も思い当たるところはありませんか?
例えばこんな感じです。
「これからご説明する提案についてですが、なぜこれが必要なのかという業界の概況から説明させていただいた上で、我々が描くソリューションをご紹介します。その前に弊社の簡単な紹介から…」
「さて業界の現況についてのご説明ですが、大きく4つのフェーズに分けてお話ししたいと思いますが、このフェーズを分けるにあたっての考え方の根拠は…」
非常に誠実でしっかりした説明をしようとしているのは、よくわかります。積み木を積んでいくように、話を積み上げていき、突っ込まれてもびくともしない完璧な構造の建物を立てようとしているのだと思います。それはそれで、とても大切なことです。
しかし、プレゼンを聞いている方の気持ちになってください。スライドがあるとはいえ、聞いている方は、聞いた直後には消えてしまう「音声」から主に情報を得ています。
細部にわたって詰めてある見事な論理構成や、完璧に調べられた精緻な情報を、口頭で聞いて全て頭の中に残しておけるという人は、どれくらいいるでしょうか。仮に処理できても聞き手には大きな負担をかけます。
聞き手に負担をかけず伝える方法
では、どうすればいいのか。例外や前提はいったん置いておいて、一番いいたいことをまず短く話してほしいのです。次にざっくりとした概略。詳細な情報は、そのあとで十分です。こんな感じです。
「我々が今日ご提案したいのは、○○というサービスです。業界で課題となっている□□を解決に導くものです。このサービスを導入することで、~のようなことが実現します。なぜこれが必要か。ここからお話しします。」
文書なら少々難しいことでも、読者は自分のペースで読み、わからなければいつでも見直すことができます。しかし口頭による説明は、発した瞬間に消えていきます。だからこそ、大切なのは最も大切なものから順番に、細かく区切って一つ一つわかる!という思いを積み重ねて行ってもらうしかないのです。
聞き手は気が短い。これを前提に話す内容を組み立てるようにしましょう。「で、本題はいつ始まるの?」と思われないようにするために。
この記事は、2019年1月から12月まで週刊東洋経済に連載したコラム「必ず伝わる最強の話術」に 加筆修正を加えたものです。
文章はものすごく上手なのに、話すとわかりにくい。そんな方はご自身で「滑舌がよくなくて」とか「話すのは苦手で」と、ちょっと見当違いの認識を持っている方が多い気がします。話すときに注意すべきは、聞いている人が聞きやすいように話すこと。書きことばに比べ、話しことばはふつう、そのための訓練、練習はしたことがない方がほとんどです。早くそのことに気づいて、練習するようになさった方が良いと思います。ふだんの会話はふつうに話せているだけにそんな認識になかなか立てないのはわかるんですけどね。私の場合、かえって緻密な頭の構造でないことが話すのに役立っている気がしないでもないですが。