ここまで30回あまりにわたって、話して伝えるための様々なコツをご紹介してきました。
本当に伝わる話し方をするためには、声の出し方や立ち居振る舞いなどの印象を良くするテクニックではなく、言葉選び、文章作りなどの準備が大切であることは、ずっとお読みいただいている方はすでにお分かりかと思います。
ただこれだけ回数を重ねてくると、さすがに1回目の内容を思い出せるという方は少ないでしょう。
そこで、今回から数回にわたって、ビジネスパーソンのみなさんが最も関心の高いプレゼンテーションの仕方を題材に、どんな段取りで進めていくか、私流の方法をご紹介していきます。これまでの伝え方のノウハウも、復習という形で出てきます。確認してみてくださいね。
プレゼンをすることになったら最初にやることは?
データ集め?スライド作り?それとも原稿を書くこと?違いますよ。最初にやるのは、プレゼンの本番の日までの工程表=スケジュールを作ることです。
実は、私のお客様で「ギリギリまで資料を作っていて、しゃべる練習まで出来ていないんですよね」という方が少なくないのです。あるある!と納得してはいけません。
プレゼンは、話してしっかりと理解してもらうことが何より大切です。伝えることがグダグダだと、どんなに資料が良くても、その時間は苦痛になります。それだったら資料だけ配って全く話さない方が、よほどましです。
話の展開の骨格作り、コメント作成、スライド作成、話す練習など、それぞれのスケジュールを作ります。中でも、わかりやすく聞きやすい話し方をする練習ために、最低一日のスケジュールはあけておくようにしましょう。
お客様で「うちの社長は話すのが下手で…」とおっしゃる経営企画室や広報の方がいらっしゃいます。よくよく聞くと、本番直前まで社長が話すコメントが用意できず、話す練習が全くできないまま社長が本番に臨んでいることがわかって驚いたことがあります。社長の気持ちになってみてください。そんな直前にもらった原稿を、すらすらと読めるものでしょうか?
社長の話し方が悪いのではなく、スケジュール管理が甘いのです。できれば誰かの前でリハーサルをして、フィードバックをもらえるような機会を一度は作ってほしいところです。
いきなりスライドを作らない
プレゼンをすることになったら、とりあえずパワーポイントやキーノートなどを開いて、必要な図表を集め、伝えたい文言を並べてスライドを作り始める方がいます。気持ちはわかります。資料を作っておけば、なんとなく形ができて安心ですよね。あるいは自分の頭の整理のためにも、資料を作ってみるという方がいるかもしれません。これが落とし穴です。
スライドを作り込むうち、そのスライドを充実させることや見栄えを良くすることに気をとられ、結局話すべき内容以上のスライドを作ってしまう。そうやって頑張って作ったスライドだけに、説明する時間がないのがわかっていても、捨てるのにしのびなく、全部盛り込んで結局よくわからないプレゼンになってしまっている例をよく見ます。
私は、スライドよりもまず言いたい内容を、思いついた順番に言葉にしてアウトプットします。
私の場合は、言いたいことを口に出していき、それを録音することが多かったです。頭の中では非常に気の短い人を想定し、その方がイラつかないように最も大切なことから話すようにします。そのために余計なサブストーリーは省いて、「要するに」という言葉で始めて話すようにしていました。最後に録音したものを聴き直して、原稿をまとめるのです。
この方法のいいところは、いきなり原稿を書くとどうしても前置きが長くなったり、余計な情報を入れてしまいがちになるのを防げること。もう一つは、当たり前ですが自然に話しやすい表現になっているところです。ただし、そのままだと何回も同じことを言っていたり、まどろっこしい説明になっているなど無駄な部分も多くあるので、原稿にするときにそれらを整理するようにするのです。
いきなり口に出すのが苦手な方は、まずパソコンで言いたいことを整った文でなくていいので、とにかく書き殴るようにします。
言いたいことを書き出したら、次はストーリー作りです。その方法は次回に。
この記事は、2019年1月から12月まで週刊東洋経済に連載したコラム「必ず伝わる最強の話術」に 加筆修正を加えたものです。