プレゼンテーションやスピーチ、就職活動の面接などで聞いている人を引きつけるのに大きな力となるのが「具体的なエピソードを交える」方法です。この方法、結論や概要は先に、そのあと詳細や根拠を話すという基本的な伝え方にはない技術が求められるため、なかなかうまくいかないという方も多いと思います。
そこで参考になるのは、やはりお笑いです。中でも私がオススメしたいのが「人志松本のすべらない話」というテレビ番組です。
「すべらない話」の構成パターン
ダウンタウンの松本人志さんなどお笑い芸人10人ほどの皆さんが、カジノのルーレット場のようなセットを囲む中、ホスト役でもある松本さんがサイコロをふります。サイコロには出演者の名前が面ごとに書かれていて、出た目に名前が書かれていた人が、すべらない話(確実に笑える話)を披露するというものです。ここで披露される3分前後の話が、見事なエピソードトークの見本になっています。
多くのすべらない話の構成のパターン(フォーマット)はこんな風になっています。最初は「~の話なんですけど」と、大まかにどんな話かを伝えます。次に、いつ・どこで・誰がなど基本的な状況を説明し出来事が動き出します。話が佳境に入るにつれ、客観的な描写から自分がそのとき感じたことや実際の会話のやりとりなど、生き生きした描写が増えていきます。もちろん最後はオチ。
私たちがビジネスシーンでこの話し方を活用する場合、最後のオチは必須ではなく、納得さえしてもらえれば大丈夫です。ポイントは「的確な状況説明」と、「自分の感情や会話のしっかりとした再現」です。
「すべらない話」の話術をビジネスで使う
一例を挙げましょう。例えば、会社内での新事業、新商品の提案。提案には予算や事業の見通し、お客様アンケートなど様々な客観データが大切です。そうしたデータをどれだけ論理的に構築できるかが説得のためのカギになるのは、言うまでもありません。ただ、次から次にそうしたデータが紹介されてしまうと、理性的には納得できても、感情まで動かされることはなかなかないと思います。
そこで、こんなエピソードを入れてみます。
「我が社の新商品、意外なところが評判が良かったんです!実は先週土曜に、新商品の試食会を駅前のスーパーで行ったんです。そうしたら赤ちゃんを抱っこした20代くらいのお母さんが来たんです。その方、パッケージを手に取ると『このパッケージいいわね。これだったら赤ちゃんが間違って飲み込まないから』って言って、すっとひと箱買ってくれたんです。ほかにも『手が汚れなくて使いやすいね』『買い置きしておいてもデザインがかわいいから邪魔にならないかもね』などパッケージを手にとってほめてくれる人が17人もいたんですよ。私がいた2時間ほどの間に!嬉しかったですよ~」
これが、円グラフでも示しながら「駅前のスーパーでアンケートを行いました。答えてくれたのは20代から40代の主婦50人。実に67%の方がパッケージをほめてくれました」という報告だったらどうでしょう。ちょっとインパクトが弱いですよね。
具体的なあなたの見聞きした情景や言葉、これを聞いている人の頭の中にありありと思い浮かばせることができれば、数値には出せない説得力が生まれます。是非、芸人の方の話術から学んでチャレンジしてみてください。
この記事は、2019年1月から12月まで週刊東洋経済に連載したコラム「必ず伝わる最強の話術」に 加筆修正を加えたものです。
エピソードトークって、話し手の技量が問われますよね。私のお客様で「必ず結論を先に言わなくてはいけないのでしょうか?ストーリーで語るという手法もあると思うのですが」という方がいらっしゃいました。いつも結論を先にでは面白くない。そこに至るまでの話を聞いてほしい。気持ちはわかります。しかし、結論に至るまでの間、あなたの話を聞き手が関心を持って聞いてくれるかは本当に難しいことです。「で、何が言いたいの!?」と相手に不快に思われたら意味がないですよね。実況描写力が高いと、聞いている人がストーリーにひきつけられる可能性は高まります。そのためには綿密な構成も含め、事前の準備が必要です。エピソードで引っ張っていくには、その覚悟が必須と言えると思います。