話し方を学ぶのに、お金もほとんどかからず効率よくできる方法があります。それは、テレビ番組を研究すること。
説明の仕方を学ぶのにぴったりなのが、ニュース番組の解説コーナーなら、人を引きつける話し方を学ぶのにぴったりなのがお笑い番組です。
なかでも、お笑いのテクニックをそのままビジネスに生かす方法を教えてくれるテレビ番組があったので、紹介させてください。
お笑い技術のビジネス活用が学べるテレビ番組
それは、以前Eテレで放送されていた「芸人先生」という番組です。人気の芸人さんが企業を訪ねて、彼らのお笑いのテクニックの中でビジネスに役立つものを講義するという内容です。
書籍も発売されているので、興味のある方はぜひご覧ください。サンドウィッチマンさん、ナイツさんなどの回は特に勉強になりました。
中でも私の記憶に残っているのは、兄弟漫才コンビ「ミキ」の二人が、観光バス会社を訪ね、若手のバスガイドさんに授業をするというものでした。
生徒役の一人のガイドを聞いた二人は、「すごい情報量!すばらしい!」とほめた後、「すごい勉強したんやろなぁ、というのが見えるのが惜しい。もっと普段知り合いの人と会話しているような感じでしゃべれますか?練習したのがはっきり見えないようにしてほしい」と指摘したのです。
さらに「そうなるために必要なのが、もっと練習を積むこと。ボクらの漫才だって、台本はあるんですけど、お客さんやその場面に応じて自在に話せるためには、常に自分の言葉でしゃべれるようになるまで、何回も練習するんですよ」と続けました。
若い二人がさらりと話していましたが、私はこれこそプロのコメントだ、とうなってしまいました。
覚えた原稿を相手に悟らせず、自分の言葉として語る
実は、新人アナウンサーも、覚えたことを間違えずになめらかに話すだけなら、ある程度練習すれば誰でもできるようになります。
しかしそれだと、聞いている人は「ちゃんと覚えてきたんだなぁ」とは思ってもらえるものの、深く納得したり感動したりというところまではいきません。自分では一生懸命話しているつもりだと思いますが、やっていることは「頭の中にある原稿をただ読んでいる」だけ。だからそうなってしまうのです。
アナウンサーが乗り越えなくてはいけない最初の壁。それは、覚えた原稿を話しているのを聞き手に悟らせることなく、「自分の言葉として語っている」ように話せるようになることです。そこまでになってはじめて、聞いている人は深く納得してもらえるのです。そのためには、伝えるべき内容を深く理解し、話す順番を変えたり、話す時間を変えたりしても破綻なく話せる状態にまで練習しておくこと。
私も新人アナウンサーだった頃は、たった3分の中継リポートをするのに一晩寝ずに何度も何度も口に出し、動きをつけながら練習していました。ここまでやってはじめて、本番に余裕を持って話せるのです。
「話し方がうまくなりたいんです」という方は本当に多い。しかし、残念ながらとことん練習しようという人はほとんどいません。
プレゼンテーション、スピーチがうまくなりたいのなら、原稿やスライドをきっちり準備して、そこで満足しないようにしましょう。何度も何度も口に出し、原稿なんてなくたって、スライドを見なくたって大丈夫。時計を見なくても時間ぴったりに話せる。まずはそんな状態になることを目指す。
そこが、本当に伝わる話し方ができるスタートラインなのです。
この記事は、2019年1月から12月まで週刊東洋経済に連載したコラム「必ず伝わる最強の話術」に 加筆修正を加えたものです。