NHKを退職してまもなく3年、ビジネスの最前線に立つ社長や起業家の皆さん、様々な業界や企業の方のプレゼンテーションを聞く機会を積み重ねてきました。
そんな中で、ずっと心の中でわき上がっている思いがあります。それは、「あなたの話を理解してもらえているか、自分で心配にならないのかなぁ」ということです。
マシンガントークの落とし穴
プレゼンを見ていて一番多いと感じるのは、とにかく早くこの時間を終えたいとでも思っているかのごとく、駆け抜けるように話してしまう方。周りの方からは、「マシンガントーク、すごいですね~」なんて言われているのが目に浮かびます。
自分でも話すことに自信があるのでしょう。意気揚々と楽しそうに話す方、クールに次から次へと情報を口に出す方なども多いですね。
プレゼンではないですが、テレビで時代の寵児的な扱いをされている方の話し方も、多くの場合マシンガントークであることが多いです。確かにこういう方はとにかく口が回るので、聞いているときはなんとなく「へぇ、すごいなぁ」と思わされてしまいます。
一方で、そんな話し方だからこその「最大の弱点」があります。それは、数分たって「なんの話だったっけ?」と思い出そうとしても、断片的にしか頭に浮かばないこと。聞いている人が一つの話を理解しきる前に、次の話をされるため記憶に残らないのです。せっかく話したことが覚えてもらっていない。果たして、その「マシンガントーク」は意味があったと言えるでしょうか?
とはいえ、そんなマシンガントークをしてしまう方にも気の毒な面があります。それは、周りの人が「ちょっとわかりにくいんだけど…」となかなか指摘してくれないことです。
理由はなんとなく想像はつくと思います。口が回る、次々に言葉が出てくる人は、頭の回転が速く見えますよね。聞いている人からすると、そんな人の話の途中に「わからない」などと口を挟むと反撃されるかもと思ってしまう。
結果的に、黙ってその人の話を延々聞いてしまうことになるのです。話している方は、「自分の話がわかってもらえている」と誤解したまま話を続ける。そして今に至る。そんな感じではないでしょうか?
ある大先輩が言った一言
私が、確信を持ってこんなことをお伝えしているのには、理由があります。実は、この「自分の話はわかってもらえているんだ」と思い込んでいたのは、かつての私のことだからです。
NHKにアナウンサーとして入った1991年の春、私は同期のアナウンサーの中で、口がやたらと回る部類でした。負けたくない、と意気がって余計にぺらぺら話していたと思います。そんな私に、ある大先輩が言ったのです。
「松本。おまえの話し方は、立て板に水どころじゃない。立て板に氷水だ。つるつる滑って何も心に残らない。」
最初は何を言われているのかわかりませんでした。そんな指摘を受けたことがなかったからです。悔しくて改めて自分の放送を見直し、ほかの先輩の話し方と比較してみました。はっきり違いがわかりました。自分勝手なスピードで話し、聞いている人のことを考えていなかったことを。 皆さんも私のような「立て板に氷水」にならないように気をつけてくださいね。
速いことこそ正義!実は高校生の頃、私は固く信じていました。いや、話し方のことではありません。ロックギタリストのプレイのこと。なかでも大好きだったのは日本のヘビメタ界のLegend、Loudnessの高崎晃さん。その頃はただただその速さに憧れていたのですが、大人になって聞き直してみると、ただ速いのではなく絶妙なリズム感、間合い、音色の切り替えなど実に繊細な部分があるから素晴らしく聴けるのだとようやく気づけました。2020年10月に亡くなった、Eddie Van Halenも速さよりも歌い方のスゴさが耳に残るようになりました。
強引ですが、話し方も同じです。速くてもいい。遅くてもいい。要は、ちゃんと聞き手の心を動かせるかということなんだと思います。